『しあわせのパン』

趣味は何かと訊かれる度、いつもほんの少しだけ申し訳ない気持ちになる。訊き手の好奇心に応えられそうな、ストイックでスペシフィックでオリジナルな趣味というのが僕にはないからだ。

小説を読むこと、音楽を聴くこと、映画を観ること。好きなことはすぐに浮かぶのだけれど、これはいまいち『趣味』という感じがしない。本(あるいはあらゆる意味での『文章』)をまったく読まない人もいないだろうし、同じように日常生活において音楽をまったく聴かない人もそんなに多くないだろう。映画もその例からはさほど漏れないような気がする。テレビを観るのが趣味だとか散歩をするのが趣味だとかいうのと同じで、そこには日常性はあれどスペシャリティのようなものはあまりない。結局のところ僕は、相手がグッと惹き寄せられるような、もっと格好いい活動を『趣味』として高らかに宣言したいのだろう。

「趣味…ですか?そうですね。僕はダイビングが好きで、夏になるといつもカリブ海へ潜りに行くんですよ。それが趣味って言えば趣味かなぁ?ティブロンがちょっと手荒に歓迎してくれるんですけど、慣れればそれも可愛いもんです。…あ、すいません!ティブロンっていうのはスペイン語でサメって意味ですよ☆キラッ」

とか満面の笑みを湛えながら言いたいじゃないですか!憧れられたいじゃないですか!「キャー素敵!私も貴方と一緒に潜りたいです!しょうがないなぁ僕が手取り足取り腰取り教えてあげるよ。キャー素敵!あなたの愛の藻屑になっちゃったらどうしよう!大丈夫だよハニー、僕がひとつ残らず拾い上げてあげる。それで二人の愛の城をつくろう。キャー素敵!抱いて!あっははは随分大胆なお嬢さんだ。こいつはティブロンより厄介かもしれないな☆キラッ」とかって言いたいじゃないですか!え、言いたくない?よく考えてみたら僕も言いたくないです。うん、地味な趣味でいいか。

ということで、今日も今日とて平凡な映画の話です。
ここで「平凡」が修飾しているのは「話」ですので悪しからず。

「僕の趣味の映画じゃないなぁ」とはトレイラーの時点で思っていて特に注目していた作品ではなかったのですが(ここでの『趣味』は前述のような『ホビー』のそれではなく『審美眼』の方の『趣味』です。あぁまどろっこしいイントロダクションのせいだ)、とある方から劇場鑑賞券をいただいたのでならばせっかくだしと観てきました。どうやらお名前は挙げられないらしいのですが、本当にありがとうございました。

まるで絵本のような雰囲気で始まった映像を観ながら「あぁ、やっぱりこれは僕の趣味ではないな」という思いを強めたのも束の間。原田知世さん大泉洋さん演じる水縞夫妻は憧れてしまうぐらいにとても愛らしく魅力的で、カフェの春夏秋冬を通して描かれたいくつかのエピソードはそれぞれがそれぞれに暖かく、画面一杯に映された出来たてのパンと淹れたてのホットドリップは凶器のように僕のお腹をえぐり、気がついたら映画は終わっていました。うん、楽しかった。お腹も減った。

純度の高いハッピーエンドの物語が昔からあまり好きになれずついついこういうタイプの映画は避けてしまう傾向があったのですが、ほんわかふんわかしたお伽話を観るようでなんだか不思議と心が暖まりました。『趣味』じゃない『趣味』 も、たまには悪くないものですね☆キラッ

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