自販機でオレンジジュースを購入したら、取り出し口からはりんごジュースが転がり出てきました。
僕はオレンジジュースが大好きなのです。それに反してりんごジュースはあまり得意ではありません。
後者は比較的甘味の強い商品も多く、喉が渇いている時はもちろんのこと、食事とも合いづらいと個人的には思うのです。
出てきてしまったものは仕様がないので、それを飲むことには問題ありません。しかし焦点はそこではありません。
僕が無意識に間違ったボタンを押してしまったのか、あるいは業者さんがミスしてしまったのかというものです。
ちっとも怒っているわけではないのですが、なぜか単純に気になってしまったのです。
自販機は新しい硬貨をさも美味しそうに飲みこみ、選択された商品を、オレンジジュースであるべき商品を僕の前に差し出しました。
すると姿を現したのはまたしても、りんごジュースでした。やはり、という歓喜の感情がよぎりました。
僕は無意識下においても、大好きなオレンジジュースさんを裏切ってなかったんだ!
と、一入の喜びもつかの間、僕の手元には結果として2本のりんごジュースが残りました。1+1=2という当然の帰結です。
僕の犠牲を無駄にするわけにはいかない!そういきり立った僕はメモパッドに走り書きをし、自販機に張り付けました。
「オレンジジュースを押すとりんごジュースが出ます。気をつけてください!」
これで同じ轍を踏んでしまうまだ見ぬ誰かが助かるのではないか、という思いで僕はその場を後にしました。
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2日後、僕は同じ自販機と対峙していました。僕の貼ったメモパッドには何と返信が書いてありました。
「すみませんでした。直しておきました」
署名と日時が添えられたその返信によると、エミルさんはつい先ほど補充点検を終え、間違いを直してくれたみたいです。
誰にでも間違いはありますし、あるいは先日はりんごジュースを飲むべき運命のラインに乗っていたのかもしれません。ありがとうエミルさん。
もう用済みとなったメモを無造作にはがし、くしゃくしゃのままポケットに詰め込み、安心してオレンジジュースを購入しました。
また、りんごジュースがでてきました。
驚きの展開に戸惑いながらも、僕は再びメモ用紙に数文字をなぐり書きし、署名も加えておきました。
「まだオレンジジュースを押すとりんごジュースが出ます。あなたはそんなにりんごジュースが好きなんですか? たかひろ」
なんていうか、今となっては彼と僕はメル友みたいなものです。
りんごジュース買ってみれば?
kie
あーはははは。おかしいなぁ、その文体最高(笑) う~ん、その彼は実は補充点検の人ではなくて、メモ見て面白がってもう一本買わせようとイタズラしただけなんじゃ…
kie>そうすると、りんごジュース協会の目論見通りの感が否めないので出来ないね。アンチ協会。
mary>その可能性は無きにしもあらずだけど、どっちにしろ再補充される分の日時は経過したはずなんだよね。 どちらにしろアンチエミル。
まぁ、どっちにしろムカつくよね。りんごジュースって絶対りんごの味じゃないよ。あの爽やかさがどうしたらあぁしつっこく表現されるんだ。とてもじゃないけど3本も飲めないよ(笑) 絵にしても実物は綺麗な色なのに、どれ見ても毒々しい蝋の塊みたいな…。何故にりんごの表象はかくもどぎついのか。 寧ろ、アンチフェイク。この世で一番美味しい飲み物は、生搾りの果実と、鍋で牛乳に溶かしたホットチョコレートだ。
mary>まるで親の仇のようだね。冗談みたいだけど、今日もりんごジュースが出てきました。なんていうか逆に嬉しかったよ。あぁ、きみはまだ僕の手の届くところにいてくれたんだね、みたいな。これって、恋?
あは~、私の日記はテンション高いと北杜夫みたいになるからね。 っていうか何だよテメー浮気かよ。オレンジジュースが泣くぞ。