クラッシュ・ミー

なんだかおかしいなとは途中からわかっていたのです。これは普通ではないだろうとは。
 
 
カナダはウィニペグという中都市に住み始めて5日目になろうとしています。まさしく、時は飛ぶようにその歩を確実に進めています。
気温は日本とほぼ変わらず、この町の代名詞といわんばかりに時折西からの強い風がビルの谷間を通り抜けています。
ウィニー・ザ・プーつまり、くまのプーさんの由来ともなった場所ですが、今のところ彼の銅像などは見かけていません。
 
いわゆるカナダにおける大都市、トロント、バンクーバーと比べると明らかに見劣りする規模のシティーですが、ダウンタウンに住んでいるので不便もありません。
徒歩圏内に学校もあれば、ジム、ザ・ベイ、映画館、チャイナタウンもなどもあります。観光ならいざ知らず、住むのには悪くないでしょう。
 
ダウンタウンということもあり、路上には生活に窮しているように見える人々もいますし、夜になれば治安は決して良いとはいえないようです。
朝に夕にと一度づつぐらいの頻度でパトカーのようなサイレンを聞きます。アジア系の女の子が集団に襲われたという話も耳にしました。
 
しかし、それでも住民の人々は、ここでは多く見られない僕を含んだ東アジア人を快く迎え入れてくれているように見受けられます。
なぜかというと彼らはとても気さくで(少なくとも表面上は、ということだが)、侮蔑的な見方をされることがとても少ないからです。
 
毎朝の日課となったスタバのコーヒーを買う時などには、
 
 僕「コーヒーくださいな」
 
 店「あら、いつも同じよね。サービスしてあげるからこっちにしてみれば?」
 
と言われることもありました。
 
 
来るべき草サッカーのために、ジャージを買いに行った時には、
 
 僕「これくださいな」
 
店A「はい。あら?今バーゲン中なのにこれあんまり安くないわね?ちょっと値札見てきてよ」
 
店B「はいはい。あら、それはなぜか定価販売みたいね。それにしても高すぎるわ、バーゲン中なのに。あなた安くしちゃいなさいよ」
 
店A「そうね。それだったら何%引きにしようかしら(少し考える)。よし50%くらいでいいわ」
 
という調子です。なんとも気さくでフレンドリー。もしかしたらそれがこの町の町民性(という言葉があればだが)なのではないか、と僕は喜びながら感じたのです。
 
 
あくる日、僕がバーゲンショップへ赴き食器や調味料などを買っていると、あるご婦人に話しかけられたのです。
 
 婦「ねぇ、あなた。私カーテンを買おうと思っているんだけど、ソファーのカバーとの色合いを考えて、どっちの柄にしたらよいか迷っているのよね」
 
と。元来僕はこういった触れ合いが好きなこともあいまって、きちんと返事をしました。僕はこの町の雰囲気とあっているのかもしれません。
 
 僕「ソファーカバーでこの色を選ばれるなら、カーテンはこの色がいいんじゃないでしょうか?あ、でも少し丈が長いですね。これはどうです?」
 
 婦「そうね、私もそう思っていたわ。ありがとうね」
 
彼女は控えめに礼を言うと、レジカウンターの方向へと消えていきました。しかし息つく暇もないまま、今度は主婦風の二人に声をかけられたのです。
 
 婦「ねぇ、あなた。このフライパンの一回り小さいサイズ知らないかしら?」
 
少し前にそのエリアを見ていた僕は、まるで店員さんかのような素早さで彼女の要望に答えることができました。
 
 僕「一つ先の棚にありますよ。いえいえ、どういたしまして」
 
ここまで来ると、なんだか僕はずいぶん昔からここに住んでいたような気がしてきました。あぁ心の故郷、ウィニペグ。なぜもっと早くに来られなかったのだろう。
 
 
そしてその道すがら、ちょうど大学を抜けて家に帰ろうとしているときでさえ、
 
 男「すいません、学生のカウンセリングセンターはどこにあるかご存じですか?」
 
 僕「あぁ、それならまっすぐ行って突き当りの階段を下りればすぐわかりますよ」
 
などと、人と触れ合うことに事欠きません。
 
僕の大好きな映画「クラッシュ」では、人と人とのあらゆる意味での「Crash」がテーマの一つになっていました。
殺人にまで発展する喧嘩、仕事に対しての価値観のずれから生じる激突、文化や言語の違いからくる分かち合えないほどの差。
そんな色々な衝突の火種となりうるものがこの世界には流布していれども、結局僕らは「衝突していたい」、つまり「触れ合っていたい」のではないかと。
 
家路へと着きながら僕はぼんやりとそう考えていました。午後の8時でもまだ昼間のように明るい空を見ながら。
 
部屋に買ったばかりの荷物を置き、友達の部屋を訪ねました。彼はもう1年ここにいるので、町のことはよく知っているはずです。
 
 僕「いやー、今日はこんなことがあってね、やっぱり人と人との触れ合いってのは大事だと思ったわけだよ」
 
すると彼はおもむろにこう言いました。
 
 友「へー、そんなこともあるんだね。ところで今日の服装といい首から下げてるカードキーといい、なんか学校のスタッフか店員みたいだよな」と。
 
 僕「・・・・そ、そんなことないんじゃない・・・かな」
 
なんというか、僕の心は完璧にクラッシュしました。もうスーパーなんか金輪際行きません。
 
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