hello Mr.

僕は毎夜、決まった時間にその店に行く
 
僕は毎夜、決まって無感動に喪に服する
 
「もう随分経つんだね」
 
マスターは独り言とは思えない声量で壁に言葉を投げかける
 
「どうやら、そうみたいだね」
 
僕の気の無い返事なんて、他人に語る独り言より意味がない
 
 
しばらく二人を沈黙が包み、グラスの中で溶け出した氷だけが饒舌になる
 
彼はまるでそう宿命づけられたみたいに棚に並ぶボトルを磨き続け
 
僕は定められたとおりにグラスを口に運び続ける
 
アルコールを染み込ませる事が、その日一日の自分に対しての贖罪であるかのように
 
 
時計の針が12時を回り、全てが現実に戻ろうと支度を始める
 
その瞬間、昨日の僕は死に、今日の僕が生まれる
 
昨日あった嫌なことなんか放っておけばいい
 
どうせ今の僕も一日限りの命なのだ
 
「また明日」
 
そう言い残して店を出て行く
 
「また明日」
 
ボトルを磨く手を休めずに彼も言う
 
初めから答えなんか重要じゃない、言葉にすることに意味があるんだと言わんばかりに
 
 
死ぬ気になれば恐いことなんかそうそうあるものじゃない
 
限りなくネガティブなポジティブさを持って今日もまた僕は生まれる
 
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