I’m stuck on…

雨の気配を感じて右手を空に向けて広げたら

大粒の涙みたいなしずくが降ってきた

あるいは、それはしずくみたいな涙だったのかもしれない

 

雨足が強くなるにつれて、歩道は様々な色の花で彩られる

黒や赤や無色の花でさえ、この時を待ってましたと言わんばかりにその蕾を開く

咲き誇る傘たちを見ていると、あの日のことを思い出さないことはない

慣れない都会に出かけ、映画を観に行ったあの日のことを

 

その日は、もう悲劇的なくらいついてなかった

 

記憶していた映画の上映時間はまるで見当はずれなもので

何もすることがなく入ったカフェで、僕らは膨大な時間を潰すことになった

ただもう沈黙が怖くて、頭より先に口を動かし続けていた

あの時どんな話をしたかは全く覚えていないけれど

きみが時計を見ないようにと願ったあの待ち時間は、僕にはまるで永遠のように感じられた

 

映画を観終わり、感想を言い合う間もなく流れに身を任せて出口の方へと進むと

外は本当に嘘みたいな大雨だった

ゼウスとアポロンがよってたかって僕を陥れようとでもしているかのような降り方だった

あいにく僕は傘があまり好きではなく、その日もやっぱり家に置き去りにしてしまっていた

絶望の穴ぐらの底から動き出せずにいる僕の真横で、小さな花が開いた

 

悲劇は喜劇となった

僕達は、何かの間違いで早く生まれてしまった羊みたいな足取りで

リノリウムの床から、どしゃ降りの都会の夜に歩を踏み出した

足並みはまるでそろっていなかったけれど、そんなことは気にならなかった

ただ、この地球の恵みがやまないことを祈っていた

 

あの時、傘のことがほんの少しだけ好きになった

もちろん今でも、自分で使うのは望むところではないけれど

なにも傘の楽しみ方はそれだけではないのだ

 

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